ソプラノ川上真澄のオペラな生活

ソプラノ歌手の日常を。

楽屋見舞いの話

前のブログで人気の高い記事を、こちらにアップしています。

 

出演者の方にお渡しする楽屋見舞い。
コンサートやオペラに出ると、出演者同士、ありがとうの気持ちをお渡しすることがあります。

お互いに感謝や労いの気持ちをお渡しするので頂いて嬉しいものばかりです。


楽屋見舞いと言いますか、差し入れですね。

お客様としてコンサートに出掛け、出演者にお渡しする物とは性格の違うものですので、もし、そういったことで検索されてここにいらした方は違う話であることをご了承ください。


どんな物がいいのか毎回頭を悩ませてましたが、最近は定番のものが決まりつつあります。


一昔前はMDをお渡ししていました。皆さん稽古やレッスンを録音するんです。当時は必需品でした。意外なプレゼントに歓声が上がったこともありました。

今は入浴剤をお渡しすることが多いかな。出演者が多い時はコスト的にも助かります。

石鹸を作ってある時は、それをプレゼントしますが、なかなかタイミングよく作れないです。(タネを仕込んで出来上がるまで最低4週間は掛かります)なので、手作り石鹸が当たった方はかなりラッキーですよ。

今では、ゲンを担いで『洋梨』関連はお渡ししないようにしています。『ようなし』→『用なし』という音の響きからです。


旦那ちゃん(*)が関わる公演など、家族として楽屋見舞いをお持ちする時は皆さんで召しあがれる物を持っていきます。

(*主人のことです。前のブログで読者数が少ない時に付けたら定着しました。慣れてください!!ちなみに旦那ちゃんはオペラ演出家です)


皆さんで食べられるもの…これが結構、気を遣います。

というのも、食べ物で個別包装されてない剥き出しのものにすると余った時に持ち帰るのが大変になるからです。公演が終わったら、急いで片付けをして楽屋を後にしなければなりません。その忙しさたるや…。そんなところに、どうやって持ち帰るの!!!という代物があったら…

 

つい先日も本番10分前に楽屋に来た母。

「ぶどう持ってきたよぉ!!」

食べてる暇は無いと判断したので、そのまま私の家に持って行って貰いました。片付けも大変になりますからね。

 

本番前に渡す楽屋見舞いを選ぶ時は個別に包装してあるものにしています。余ってもポイっとカバンに入れて持ち帰れますし、何人かで簡単に分けることもできます。また、口の周りを汚さずにお口の中に入れられるというのも喜ばれます。本番前は、しっかり食べたいわけじゃないけど、なんかお口に入れたいということもしばしば。1つの量がたくさんというわけではなく、一口サイズで衣装を汚す恐れもなし。この辺もポイント高しです。

 

公演後に個別でお渡しするものは持ち帰りやすいものを。バタバタして誰から頂いたものか分からなくなるので、必ずメッセージと名前も添えます。


本番当日でなく前日のリハーサルで差し入れる場合や、裏方さん中心にお渡しする場合は、もうちょっとガッツリした物を選んだりもします。やはり本番当日と前日では欲しいものは変わってくるんです。


それにしても皆さん、どこから見つけてくるんだろう?と思うようなセンスのいい物ばかり。
いつも楽しみにさせて貰ってます。


でも時にはあれれ?というものもあるものでして。
何年か前に、声楽の他には楽器の方と一緒の演奏会に出演した時のこと。


こともあろうか、
チーズケーキだったか、生クリームたっぷりのシュークリームだったか、個別包装されてない剥き出しの、それもミルク製品ガッツリ系の、しかもその日のうちに食べなきゃいけない、冷蔵庫があったら入れておきたい生菓子を、大量に楽屋見舞い(差し入れ)として持って来た出演者がいました。判る人は苦笑いしてるね!


それはもう美味しそうでした。普段だったら泣いて飛びつきます。大好物 なのですよ。

それなのに「ありがとう」と言って、数人いた歌い手は誰も食べませんでした。みんな心の中で泣いていたと思います。


歌い手あるある、なんですが、普段は甘い物大好きでも、生クリーム系大好きでも、本番前に、それもガッツリ食べる人をお見かけしません。

乳製品は喉にまとわりつくような感じがあるから嫌だと言う人もいます。また、痰予防のために摂らないという方もいます。

高校演劇どっぷりのうちの息子だって、成長期というのに本番1ヶ月前からは痰予防のため乳製品は摂らないんですよ(面倒だから食ってくれ!!)

烏龍茶は喉の潤いを奪われる感じがするからイヤという方もいますね。

ホント、色々です。

ちなみに、管楽器の方も本番前はあまり食べない方が多いですね。そして、歯磨き率の高さ!
楽器によって色々と変わるから面白いものです。


そういうわけで、乳製品系は歌い手は演奏に影響があるので手をつけない人がいるのは判るのですが、なぜかこの時はピアノ科連中も見向きもしない…


そしたら、その方
「歌い手さんって、たくさん食べるんじゃないの?なんで食べないの?」って、仰いましてね。


え?歌い手に押し付けてる?

 

食べる食べないは出演者の判断です。皆さん本番のために集中してるんですから、本番前に食べることを押し付けるのは演奏者としてどうなんだろう…。

それに歌い手って、本番前はあまり食べない人が多いのよ?

表面しか見ていない人からは、頂いたものに文句を付けて、と言われそうですが、

って、ちょっと待って。文句は言ってません。

「なんで食べないの?」と、こちらが文句を言われたんでした。


私たち演奏家が第一に考えなければならないのは、いつも通りのパフォーマンスをすること。

楽屋で口にした物が原因で、いつものように演奏出来なかったら、それこそ演奏家として失格です。

 

何を口にするかは、自己責任。
演奏も自己責任。


一般的には、せっかく持ってきたのに手を付けないなんて酷いことだと思われるかもしれません。でも、私たちは楽屋でゆっくりお茶をすることが目的ではなく、客席で楽しみにしているお客様に誠実であらねばならないのです。


それを分かっていなければならない演奏家が、食べることを強要するようなことを言ってきたのですから問題なのです。
誰かが食べるんですから、生クリーム系でも、お煎餅でも、辛い物でも、差し入れられた物に誰も文句は言いません。自分のコンディションを考えて食べる、食べないを判断しているだけ。

 

この時はお気持ちだけ頂戴して、片付けの時に受付の人にあげたり、自宅が近くの人にどうにかして持ち帰って貰ったりしたんだったかな。


公演終わったら打ち上げですし、自宅は遠いし、持ち帰るとしたら潰れてカバンの中がクリームまみれになってしまいそうだったので、急いで片付けしながら立ったまま、口の中に押し込んだような記憶が。


こういうものは美味しい紅茶と一緒に、ゆったりと頂きたいですね。大好物なのに。せっかくの気持ちが台無しです。

 

このような楽屋見舞い(差し入れ)は、稽古の時に持って来て頂くと、かなり喜ばれます。
あっという間に無くなるでしょうね。要は適材適所ならぬ、適時適物???

本番前は食べない乳製品も、稽古終わりなら食べる歌い手もいるはずです。


そうそう、だいぶ前のことですが、楽屋見舞い(差し入れ)に手作りのチョコレートケーキを持って来て怒られている出演者を見たことがあります。怒られる…って、どういうこと?!


一口ずつ口に入れられるように工夫してあって、気遣ってるなぁと思って見ていたんですが「食中毒おこしたらどうするんだ!」って。

せっかく作って来たのに、その人、かわいそうでした。食中毒…ってね。なんだか失礼ですよね。

 

「みんな食べなさいよ!」と、先ほどの乳製品ガッツリ系を押し付ける出演者のようなことはしてなかったのに、です。テーブルに置いて、食べたい方はお取りくださいっていうシステム。


『食中毒』って、それを言ったら何にも食べられません。お店のものであろうとなかろうと食中毒を起こす可能性はあるわけですから。


先ほどの乳製品がっつり系ではないですが、みんな自己責任のもと、食べる人は食べるし、食べない人は食べない。


それより何より、後片付けが大変だなぁそれだけです。これは制作さんのお仕事だから、大きなカンパニーでは歌い手はノータッチでしょう。

 

で、この手作りケーキ。

確かこれは旦那ちゃんが「だったら俺が食べてやる」と言って、懸命に消費してました。演出家は本番はカーテンコールだけですからね!!

作ってきた方は本当にお気の毒でした。

 

私たち演奏家は、楽屋での過ごし方は人それぞれです。たくさん食べる人もいれば、食べない人もいる。例え自分が持ってきたものが余っていても、それに関して不平を言う人はいないものです(今回の人を除いて)

大抵は人のことには干渉しません。お互い集中していますし、着替えなど助けが必要な時は助け合って、忘れ物があれば補える人が何かを貸したり…


手作りケーキは、それがダメだと言う人がいることを知って私は驚いたのですが、見方を変えると、この作り手を守るために注意されたのかもしれません。


食中毒なんて起こそうとは考えてないでしょうけど、責任取れるのか?ということなんでしょうね。


どちらも、稽古中の差し入れだったら大いに喜ばれたのではないかと思います。