ソプラノ川上真澄のオペラな生活

ソプラノ歌手の日常を。

おじさんが降りてきた

シチューを作ろうと買い物に行って、シチューのルーを買ってくるのを忘れたソプラノ歌手・川上真澄です。

一体、何を作ろうとしたんでしょうね?シチューのルーは旦那ちゃんに買いに行って貰いました。よっぽど疲れていたようです。

 

さて、21日に昭和音楽大学のテアトロ・ジーリオ・ショウワで開催された、クラリネットクワイヤーによるフォーレのレクイエムは無事に終了致しました。

ご来場いただき、ありがとうございました。

 

今回のプログラムは多彩なラインナップでした。

 

第一部ではクラリネットクワイヤーによる演奏。クラリネットだけで構成されるオーケストラは、これが一種類の楽器?と思うほどの色彩豊かな音色。

最初に演奏されたロッシーニセヴィリアの理髪師の序曲が何とも楽しそうで、このオペラを演りたくなりました(やらないけど)

プログラムを確認せずに楽屋でリハを聞いていたら、突如聞こえてきたバッハのトッカータとフーガ。

出だしが「たらちゃーん、鼻から牛乳」って聞こえてしまうトッカータとフーガ。オルガンの曲はクラリネットクワイヤーに合うんだよと堀川先生。とっても素敵な演奏でした。

f:id:sop-masumi:20181022103740j:image

第一部終了後、堀川先生と。

 

前半最後のフィンジ作曲のクラリネット協奏曲。初めて聞きました。声楽家には馴染みのない作曲家です。この曲でクラリネットソロを担当された昭和音大講師の近藤 千花子さんの演奏、圧巻でした。

 

第二部ではサン=サーンス交響詩《死の舞踏》に続いてフォーレのレクイエムでした。

《死の舞踏》はエキゾチックな雰囲気でこれまたステキな音楽。歌で表現できること、楽器でしか表現できないこと、色々ありますから他楽器の演奏を聴くのも楽しいものです。

 

そしていよいよフォーレのレクイエム。

クラリネットクワイヤーにハープを加えた編成でした。これがまた、ハープの音色っていうのは天国なんですね。

f:id:sop-masumi:20181022104412j:image

当日リハーサル前にハープの山本さんと。

最近ますます美しくなられました。彼女とは12月にまたご一緒します。

 

で、クラリネットは40人を超える編成だったんです。合唱は30人弱。楽器の音は大きいですからソリストも合唱を歌ってくださいということで、全部フルで歌いました!(普通はソリストは合唱は歌わない)

これが楽しかったのなんのって!!!

大学を卒業して、こういう形で合唱を歌うということはありませんでしたから20数年ぶりの合唱。リハも張り切って歌って、本番も当然張り切って、完全に自分の役割を忘れて合唱を楽しんでました。

終わって、楽屋に来てくれた方から口々に「合唱も真澄さんの声がバンバン聞こえてきたぁ!!!」あああ…学生主体のコンサートなのにぃぃぃぃ。

 

そういうわけでソロも歌ったんですが、この曲に求められる天国的な、ボーイソプラノ的な、白い声っぽいような雰囲気はね…私が求める理想はどこかに行っちゃったんですね。歌いまくって声帯が温まりまくって、そりゃあもう大人の声に。

もちろん演奏が破綻したわけではなく、ちゃんと歌いましたし、後で録音を聴いたら演奏しながら自分が感じてたものとは違って一安心。やはり自分では分からないものですね。

 

終わって堀川先生に「今日はいつもと違ってた」と言ったら「いつもと同じ!良かったよ」と。緊張してたんですかね…。歌いながら「今日はおっさんが降りてきてる」なんて思ってたんです。天使を降ろしたかったです。

旦那ちゃんには「合唱、楽しそうに歌ってたもんなぁ。リハも張り切って歌ったでしょ?」と。さすがお見通しです。

 

フォーレのレクイエムは7曲で構成されています。合唱に求められるもの、ソロの曲に求められるもの、それぞれ違います。合唱を歌ったあとでソロを歌うのはメリットもデメリットもあります。

フォーレのレクイエムではソプラノソロは第四曲目に登場して一曲のみで、大抵は演奏が始まったらオケの前に座って自分の出番まで歌わずに待ちます。合唱を歌わなかった場合はずっと声を出さずにいきなりですので、出だしで失敗しそうで怖い曲です。

今回は合唱を歌ったので声帯が温まって良かったんですが、温まったが故に出だしのコントロールが難しかったんです。合唱を歌わずにこの曲を歌う場合も出だしのコントロールは難しいので、どちらにしても難曲ですね。

 

しかもこの曲、ソプラノの曲なのに最高音は五線の一番上のファ。低いです。ソプラノの勝負所の音が出てこないのです。五線の上の音が一つも無いなんて、フォーレのイケズ!!ちょうどソプラノの2回目のチェンジの手前ですかね。この辺は私は難しさは感じないのですが、それより最後の音のソから♭シに移る時に初心者の頃に感じたようなチェンジの恐ろしさを感じたので、よほど緊張していたようです(声のチェンジ箇所があって声部によって位置が違うのです)録音を聞いたら何ともなかったので、自分が感じてるのと外から聞こえてるのとは違うんですよねぇ。

 

最高音がファということで、ボーイソプラノ的な声が理想だったんです。なのに男の子通り越して思春期も反抗期も青年期も通り過ぎて、おじさんが降りてきてしまった…

旦那ちゃんは、私が120点を目指していたんなら100点でした、と言ってくれました。それに、大学時代からの私の演奏をよく知っている友人も「あの大きいホールで私の存在をしっかり感じられて宗教曲大好きってのが伝わってきたいい演奏だった」と絶賛して帰っていったので良しとします。

f:id:sop-masumi:20181022113331j:image

もう一人のソリストバリトンの市川さんと。なんと、私が大学に入学した年に生まれたそうで…つまり、18歳年下!今回は若い人たちに囲まれて自分の老いを(老いというには早いけど)感じてしまいました。だってね、一年生と話したら、彼女たちのお母さんは私より若いことが判明!!!そりゃそうよね。うちの息子は16歳なんだもの。

 

フォーレクの最後の方と、アンコールで歌ったラシーヌでは堀川先生、涙ぐんでたそうですよ。私は合唱の位置にいて遠かったので見えませんでした。残念。見たかった!!

堀川先生とは長いこと一緒に演奏活動してますが、これがまた絶対に私の前では泣かないんだな。

 

この昭和音大クラリネットクワイヤーはサークルと言えど歴史あるもので、OB、OGの皆さんも裏方として関わっていて皆で作り上げていました。これだけのクラリネット吹きが集まって活動というのはなかなか出来ないことで、貴重な機会にご一緒できて感無量でした。

 

出演者の皆様、関係者の皆様、ありがとうございました。母校で後輩たちと一緒できて嬉しかった!大学時代を懐かしく思い出して楽しいひと時でした。ここ数年の音楽活動の中で、久々に「音楽をする」楽しみを味わえた時間でした。感謝です。