ソプラノ川上真澄のオペラな生活

ソプラノ歌手の日常を。

アヴェ・マリアとは何ぞや(コンサート・その3)

先日のコンサートで話したことをまとめています。

(話してないことも追記してます)

 

アヴェマリアの歌というと、どなたの作曲のを思い浮かべるでしょうか。

有名なところではシューベルトですかね。

ちょっとマニアックな方になると、バッハの平均律にグノーがメロディを付けたもの。そんなところでしょうか。

 

ある方に、教会からコンサートの依頼があって、プログラムを組んだらアヴェ・マリアは歌わないでくださいと言われたけど、どうして?と聞かれたことがあります。

察しのいい方はお気づきかと思いますが、そこはプロテスタントの教会だったんでしょうね。

 

今回、クラシックの名曲にアヴェ・マリアの祈りを歌詞として付けました。

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バッハ/グノーのアヴェ・マリアの歌詞も、この祈りを付けたものです。

つまりこれは、マリア様への祈りです。

プロテスタントの教会で歌わないでください、と言われるのはどうしてか分かりますよね。プロテスタントはマリア信仰では無いからです。

 

カトリック信者がロザリオを持って祈りますが、その時に唱える祈りでもあります。そしてロザリオはネックレスではありません。祈るための道具です。あるミュージカルで、シスター役がロザリオを首に掛ける演技を見ましたが、そういうのを目にすると冷めてしまいます。私たちはロザリオを首から掛けるなんて恥ずかしくてしません。ましてやシスターが、だなんて。絶対に有り得ない。

 

ちょっと脱線しますが…

なんというかね、西洋音楽をやるということは文化、宗教の背景も知らないといけないと思うのですよ。見る側、聞く側は必要ないと思いますが、でも分かっていたら面白い。

 

カヴァレリア・ルスティカーナというオペラで、サントゥッツァがイースターなのに私はミサには行けない(行かない)と言うのはどうしてなのか。

カトリック信者なら「ははーん」と分かるんですが、どうでしょう?(ちなみに恥ずかしいのでここでは説明しません!)

椿姫だって、ヴィオレッタがアルフレードとの別れを決意するの、あれ、アルフレードの父親に言われたからでしょうか。ここにも宗教が絡んできます。決定的な台詞(歌詞)が出てくるんですよ。(詳しくはまた私がヴィオレッタを歌う時にブログに挙げますね)

カルメンのミカエラだって、その名前からすると役作りに生かせますし、

リゴレットに出てくるマッダレーナ…どうしてこの名前なのか。先日のコンサートにいらした方は(少し話しましたので)容易に想像が付くと思います。マッダレーナはマグダラのマリアのことですからね!背景を知ると深みが増して愉しいですね。

 

 

昔は(今も?)アヴェ・マリアの祈りは天使祝詞と言いました。マリア様への祈りなのに天使?なぜに?

 

受胎告知をテーマにした絵画がありますね。大天使ガブリエルが百合の花を手に、マリア様に「あなたは神の子を身ごもっています」と知らせに来る場面です。

アヴェ・マリアの祈りの最初の2行はこの時の大天使ガブリエルの台詞です。そういうわけで、この祈りは『天使祝詞』と呼ばれています。

 

次の2行はマリア様の従姉妹のエリザベトが言った言葉。

 

この4行は7世紀初頭、待降節第4主日のミサの奉納で歌われていたそうで、グレゴリオ聖歌の最古のアヴェ・マリアとして楽譜が現存しています。

この曲は2018年に百合ヶ丘カトリック教会で歌いました。ネウマ譜は読み取るのが大変で…。音楽も普通に耳にしたり歌うのとは趣が全く異なるので難しかったです(もう歌わなくていいです笑)

 

ちなみに、待降節とはクリスマス前の期間を言います。4回前の日曜日から第1主日、第2、…と呼びます。

例えば12月24日が日曜日だったら、その日は待降節第4主日となるわけです。で、24日その日の夜に夜半のミサ、25日にもミサ…とても忙しくなります。

 

後半の4行は1440年頃、シエナフランシスコ会ベルナルディヌスによるもの、と言われています。

 

ですからこの形での祈りは1400年半ばから祈られているということになりますね。

 

さて、そうするとシューベルトアヴェ・マリアはどうでしょう?

実はあの曲はお祈りではないのですね。

マリア様にお祈りをする少女の歌です。なのでプロテスタントの教会でもOKのような気がします。マリア様を賛美しているわけではないので。

 

ちなみに『天使祝詞』の祈りは、私は一人で祈る時は昔の文語体の祈りで唱えています。

「めでたしせいちょう満ちみてるマリア」で始まる祈りです。文語体の方がスンナリ入ってくる感覚があります。もう何度も口ずさんだ祈りなので、こちらの方が馴染んでいます。

 

今は「アヴェ・マリア、めぐみに満ちた方」で始まりますが冒頭の「アヴェ・マリア」をそのまま残したのはとっても良いと思います。

「アヴェ」は、イタリア語で言うところの「Salve」に当たるんでしょうか。「やぁ」とか「こんにちは」とかの挨拶に加えて「おめでとう」という意味合いもあるとか。(そうするとSalveは少しニュアンスが違うかな)

アヴェ・マリア」という言葉は日本に馴染んでるとして、この祈りにラテン語原文そのまま残したとコンプリ神父様に聞きました。(コンプリ神父様のご意見で決まったそうですよ)

 

知り合いの「あべ」さんに女の子が生まれたので、名前は「まりあ」ちゃんにしたら?と提案したら却下されました笑