チケットノルマとチケットが売れるカラクリ
前のブログで人気の高かった記事(2014年11月)を大幅に加筆修正してご紹介いたします。
『満席コンサート研究会』に参加してきました。
株式会社ライズサーチさんの内田奈津子さん主催の会です。(2014年の会でした)この日はコンサートにまつわるお金の話。活発な意見が飛び交い、あっという間の2時間でした。どうしたらいいのだろう?と思っていたことが聞けて、コンサート運営にまた一歩前進できたようで嬉しく思います。
クラシックの演奏会で儲けを出している方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。実際、儲けようとは思ってないというか、赤字になっても仕方ないと皆さん思っているような感じがします。
クラシックのコンサートは流行のものではないので、奏者によっては研究発表のような位置付けとして捉えているものもあるでしょう。ですので一概には言えないのですが、素晴らしいものを提供しているのは確かですから何も臆することなく『儲け』を考えていいと思いますし、それで生活しているのですから儲けを考えても何ら憚られることはないと思います。
さて、単純にチケット1枚がこの値段なら客席埋まればすごい額!なんて思われるようなコンサートもありますが、コンサートって意外に必要経費が掛かっています。オペラともなるとコンサートの何倍、何十倍にも膨れ上がるんですが、この話が始まるとキリがないのでここまで。
コンサート運営費用はどうやって賄うかといったら、ほとんどがチケット収入によるものです。スポンサーが付いている場合はチケット収入がほとんど『儲け』という恵まれた環境の方もいらっしゃるかもしれませんが、こういうケースは稀だと思います。
そうすると何としてもチケットを売らなければなりません。大きな団体ですと事務所(制作さん)がいて、チケット業務は事務局にお任せというところもあるでしょう。依頼されての演奏会もあるでしょうから、チケット販売は企画者にお任せということもあると思います。
そうでない場合、個人でコンサートを開催する時は演奏者が制作も兼ねますから当然、チケットを売って回ることになります。
ところがですね。奏者は得てしてこの業務が苦手なんです。
そりゃそうですよ。セールス業なんてやったことないのですから。音大卒業してコンサートを企画したはいいけれど、お客さんを呼ばなきゃいけないのは自分!チケット売らなきゃいけないのは自分!という現実をいきなり突き付けられるんですね。しかも商品は自分。というか自分を介した音楽。
音楽自体は素晴らしいんですよ。それを演奏する自分は…?真摯に音楽に向かっていると、もっとこのように演奏したい、こんな音を鳴らしたい、技術力を上げなきゃ、などと葛藤しながら練習しています。そんな中にあってチケットを売るんです。
売るってことは「いいもの」として売りますよね。まさか「出来はソコソコでして…」なんていうものを購入してくださる奇特な方はいらっしゃらないかと…。そうすると普通の神経を持っていたら、というか、お行儀よく躾けられた人ならば自分の演奏を素晴らしいと言って回るのって難しいと思うのですよ。
もちろん、音楽は素晴らしいですし、人前で演奏するために培ってきたものもありますし、いい演奏になるよう努力もしてますから、それなりの商品ではあると思うんです。
演奏=自分ですから、結局、自分を褒め称えながらチケット販売するような感じになってしまいます。だから真面目な日本人であればあるほど、ストレスに感じるでしょうね。こんな心理状態でお尻が引けた状態なんですから売れるものも売れないですよね。
そうすると奏者が一人のコンサート(つまり制作は自分)の場合、赤字前提で運営してしまうというケースが多くあるのではないかと思ってしまいます。赤字をかぶるのは自分ですから、他の方に迷惑が掛かるわけではないですし。
お金に余裕のある方は、それでも構わないのでしょうけど、いつもいつもマイナスでは演奏活動は出来なくなってしまいます。せめて必要経費分のチケットは是が非でも売らなきゃいけない。赤字と黒字の分岐点は何枚目からか計算して、戦々恐々として売り出しに掛かっております。
自分の企画でなくても『チケットノルマ』のある公演もあります。特に必要経費の多く掛かるオペラでは100万円単位でのノルマがあるということも聞きますし、数小節しか歌わないのに何十万円のノルマ…なんて話も。
私が企画運営する公演ではチケットノルマは課しておりません。私がやりたい企画だから、ということもありますが上記で述べたようにノルマを設けると、演奏者にはかなりなストレスが掛かるからです。ただし出演者全員で企画という性格のものならば、ノルマを決めてやるのも有りだと思います。
ノルマは無いけれど、チケットに出演者割引は設けていません。そうすると売りやすいとも聞きますが、あまり『儲け』は考えず元々のチケット料金をギリギリの押さえた設定にしていますから難しいです。先に述べたことと矛盾しますが赤字にならない方法を取るとどうしても。団体さんによっては、たくさん売るほど売り手に還元する仕組みにしているところもあるようです。
企画側からすると、ノルマ制にしないのはかなり苦しいです。チケットが売れるという保証はどこにも無いのですから。ノルマを設けないということは企画側が売り歩かなきゃいけないということです。赤字になるんじゃないかと不安もつきまといます。皆さんにノルマとして負担して頂ければ自分は動かず確実にお金は入ってきます。コンサート運営は楽になります。
ところがね、ノルマだからって奏者さんが確実にチケットを売ってくれるとは限らないのですよ。この場合、ノルマ分のチケット代金は奏者の自腹でチケットは出ていません。そうすると客席はガランガラン。空席が目立つ客席になってしまいます。それでもいいのかもしれませんが、あまりにお客さんが少ないと、足を運んでくださったお客様にがっかりな思いをさせてしまうことになるのです。お客さんに恥をかかせることになってしまうんですね。
そして奏者が、売れないからってチケットを無料で配ったとしましょう。空席が目立つよりはいいかもしれません。ところが、その公演の次の公演からはチケットは売れなくなってしまうのです。
「いつも貰ってるんだもの、買わないわ」そう思われるのですよ。
無料で貰っていた人だって、こちらがいい演奏をしていればチケットを買ってくれるかもしれません。確かにそういう側面もあるでしょう。けれどもはっきり言います。それは幻想です。無料にして価値を落としたものを元々の価値まで引き上げるのは、なかなか難しいことだと思います。喫茶店などの期間限定コーヒー無料!とは訳が違うのです。
それに無料で貰ったものって(人にもよるんでしょうけど)有り難みを感じないのですよ。付き合いで貰ったりすると「行けたら行く」そんな程度。忙しい毎日を過ごしているうちに公演日が過ぎちゃってたなんてことも。
これが自分で購入したとなると元は取ろうと思いますからね、よっぽど何かが入らない限りは来ますよ。これはチケット代金が安すぎる時にも起こる現象なんですが…。ですから招待券を配るときにも慎重にならないといけないと思います。
聞いた話ですが、ある地方の公共のホールでは、ホール主催事業コンサートのチケットが売れず、公演間近になると客席を埋めるため無料でチケットが配られるそうです(今はどうか知りません)
そうするとね、どうなるか。
『待ってれば無料で貰える』どうせ無料で配られるから買わずに待とう!!
かくしてチケットは益々売れなくなるという悪循環に陥るわけです。
話を元に戻しましょう。ノルマ制は何というか、強制されてる感じが嫌なんですよね。校則に反抗する中学生みたいなことを言ってますけど強制されて売るって何か違う。だからなのか面白いもので、ノルマは何枚と決められたら、ノルマ分売ったところでそこから先は売らなくなるのですよ。「ノルマ分売ったぁ!さぁこれで自分の演奏に集中しよう!」ってね。そんなもんです。
自分が出るんだもの、大抵の出演者はチケット販売に協力してくれます。ま、でもね。ノルマじゃないし来て演奏すればいいんでしょ?的なあぐらをかいた方はあまり見掛けませんが、努力してるように見えない場合、次からノルマ制にしたろか!と悪魔が囁くこともあります。
つまりね、ノルマにはしないけれど、チケット販売には積極的にご協力頂きたいのですよ。私が主催するコンサートは私にとっては『全客席一人ノルマ』という状況ですが、皆さん協力的で今のところ満席状態が続いています。ですが毎回必死です。
団体によってはチケットをたくさん売るからという理由で起用される方もいらっしゃるようですが、そうなるのも気持ちは分かる…。だからといって、それを演奏者選びの第一条件にはしたくないと思っています。
面白いもので、公演1ヶ月前に急にチケットが売れ始めたり、主宰している稲城市民オペラでは公演1ヶ月前にはほぼ完売してしまうという流れが出来ています。もちろん、どなたにもノルマは課してません。 こういう流れを見ていていつも感じることなんですが、稽古の最初の段階では、どんな公演になるんだろう?といった状態だったのが、これは面白い企画になりそうだ、とてもいい演奏になりそうだと、出演者が感じ始めたあたりからチケットが出て行くように思います。
どういうカラクリなんだか私にもよく分かりませんが、出演者の皆さんがノリ出すとプラスの感情で宣伝されるのでしょう。宣伝された方は「なんだか楽しそう、行ってみようかな」となり、結果として集客に繋がるのではないかと見ています。これがノルマで強制されたものだと、こういう流れは起きにくいのではないかと思っています。だからね、やっぱり出演者に宣伝して頂くのが一番効果があるんですね。あ、強制はダメですが。
それでも「私の演奏、いいのよ!」なんて言えないでしょうから、共演者を褒めまくって宣伝しています。もちろん、いい共演者を揃えてますから容易いことです。共演者同士が仲がいいと、チケットが売りやすいのはこういうことでしょうかね。そうすると、ソロリサイタルは本当に大変ですね…